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なるほど地域通貨:日本の地域通貨の今

地域通貨分科会による
 茅ヶ崎市商店会連合会主催の講演会「なるほど地域通貨」企画サポート

Part3 11月11日
 日本の地域通貨の今
  
・・・全国調査からわかったこと
泉留維

日本の地域通貨の今レジュメ

都留文科大学 泉留維

(1)マネーの現状

表1:一日の取引高:外国為替、貿易、GDP(単位:兆円、倍)

(Y)
世界の
外国為替
取引高
(F)
世界の
貿易額
(T)
倍率
(F/T)
世界の
GDP
(G)
倍率
(F/G)
1973
4
1
4
4
1
1989
78
3
30
9
9
1992
109
3
32
11
10
1995
100
3
35
8
13
1998
197
5
40
14
14
2001
150
6
27
16
9

出典:(F)国際決済銀行(BIS)
(T) (G)World Economic Outlook
及びWTO年次報告より作成

 元来、お金は、信用取引を活性化し、モノやサービスの生産を促進するために、市場経済において一般に使われるようになった。ところがその結果として形成された外国為替市場・資本市場においては、バクチ的な取引や投機攻撃を排除することはできない。そして市場開放及び金融の自由化によって、ますますモノ・サービスの生産のための投資と投機ゲームの区別が難しくなってきている。

(2)地域通貨の概要

○地域通貨とは 

「国民通貨が流通している中で、特定の地域・コミュニティにおいてのみ有効である通貨」に加えて……

  • 流通範囲・期間・目的等に制限を加えたお金
  • 必ずモノ・サービスの取引に伴って移動
  • お金の交換手段に特化したもの(注:価値の貯蔵手段、計算単位、交換手段、支払手段)
  • 国家という公的なセクターが発行するものではなく、基本的に市民や地域共同体といった共的なセクターが、地域の問題解決または環境改善等のために発行

○地域通貨の目的

  • 貨幣改革
    (例:コンスタント{アメリカ}、交換クラブ・パタコン{アルゼンチン})
  • 特定領域内での経済活動の活性化
    (例:
    1930年代の補完通貨{欧米}、イサカアワーズ{アメリカ}、トロントダラー{カナダ})→地域での経済ブロックの形成(輸入代替、環境負荷の低減など)
  • ボランティア活動の評価、コミュニティの活性化
    (例:タイムダラー{アメリカ}、時間銀行{イタリア})→新たな価値規範の提供(独自の計算単位の導入、相対での価値の設定など)

(3)地域通貨の現状

○地域通貨の現状

 地域通貨は、1980年代初頭から欧米を中心に広まっていき、現在では全世界に約3,000。
 
日本では、20028月現在で134もの地域通貨が存在している(附属資料:日本の地域通貨の分布図)。
 筆者が行った聞き取りや電子メール等でのアンケートによる実態調査から
20028月現在の各地域通貨の形式や価値基準、規模等をまとめたものが表2および表3である。結果は52%が紙券を、24%が通帳を用いており、その他にも少数であるがネットやチップ、借用証書などを用いた地域通貨もあり、海外、例えばほとんどがLETSであるイギリスやオーストラリア、ニュージーランドと比較すれば非常に多様な形式をとっていることがわかった。
 このような多様な形式がほぼ同時期に日本各地で導入され、広まっているところが、日本における地域通貨の取り組みの大きな特徴の1つである。

表2:地域通貨の形式と価値基準

  形式

価値基準

口座変動形式
クーポン
発行形式
借用証書
形式
併用


通帳
ネット
IC
カード
紙券
チップ
借用証書
複数
併用
**
時間
ベース
8
3
0
24
6
0
0
41

ベース
9
0
0
26
1
5
3
44
時間と円
13
2
0
12
0
2
5
34
取引
ベース
*
1
0
0
3
0
1
0
5
その他
1
0
1
5
1
2
0
10
合計
32
5
1
70
8
10
8
134

* 例えば、あらゆるモノ・サービスの取引1回が紙券1枚といった具合である。
** 多くは通帳と借用証書の併用である。

(出典)泉留維(2002)「地域通貨いろいろ」『未来経営』第7号、29頁。

 

 次に規模についてみると、その半数以上は参加者が99人以下であり、非常に小規模な地域通貨が多いのが現実である。1,000人以上の参加者がいる地域通貨に関しては、5団体のうち3団体は全国展開の地域通貨であり、基本的には各地の数十人から数百人からなる支部単位で活動している。
 また、規模と事業者参加の有無に関しては、
100人以上の参加者がいる地域通貨に関しては一定の正の相関関係を観察することができた。99人以下で事業者が参加していない地域通貨のほとんどは、表2の「通帳で時間ベース」と「紙券で時間ベース」に分類され、コミュニティの凝集と連帯に特化したものである。

表3:規模と事業者参加の有無

 
〜99
100〜999
1,000人〜
n.a.
計測不可能*
合計
有り
35
21
3
12
9
80
無し
35
8
2
9
0
54
合計
70
29
5
21
9
134

* 紙券や借用証書を用いている場合、事実上登録されたメンバー以外でも使用することができるため、参加事業者が多い場合や簡単に証書が入手できると参加者数は計測が困難になる。

(出典)泉留維(2002)「地域通貨いろいろ」『未来経営』第7号、29頁。

○会費の有無(会費有り64、会費無し58、不明12

→会費で経費を捻出するには難しい。

図1:主な日本の地域通貨の展開(別ウインドウで表示)>>>

 1980年代からの海外での取り組みを受けて、1999年頃から日本各地で地域通貨導入の動きが盛んになる際に、世界各地の地域通貨を参考にしながらシステムデザインをしている。
 図1が、それを表したものである。横軸は、その地域通貨が機能する経済領域を表し、縦軸が時間の流れであり、設立された年月日と性質に基づいて各地域通貨団体を示している。

(出典)泉留維(2001)「地域通貨の役割と日本における進展」『ノンプロフィット・レビュー』1(2):157頁。

○地域通貨の事例:リーフ(横浜市青葉区)

 都市部での自然農法で農作物を作るボランティアグループ「あおばの会」(横浜市青葉区)が、20025月から自然農法作物を担保とした地域通貨「リーフ」を始めた。
 自然農法農家への先行投資、無化学肥料・無農薬の安全かつ自分たちの地域で獲れた作物を流通し、消費することを目的として立ち上げたものである。自然農法を採用する農家が3軒、非農家会員が約
20名参加している。近隣の住宅地に拡大中。

  • リーフの種類50010050の3種類(ただし紙券としては500のみ、残りはクーポン)
  • リーフの価値100リーフ=100円相当(500リーフ券に50リーフのクーポン付き)
  • 入手方法:園農ボランティアへの参加(一日500リーフ)、ガレッジセール時に1,000円で1,000リーフを購入
  • ガレッジセール:地域で取れ無農薬で育てた自然野菜を販売する市。毎月第三水曜日開催。
  • 使用:米は5_から使用可能(購入金額の10%まで)、ガレッジセールでは一回につき500リーフまで
  • 増価:現金でリーフ券を購入した環境保全活動をしているNPOなどには、クーポン部分に判子を押し、500リーフにつき50だったクーポンが、100200というクーポンをさらに追加できる。

 携帯電話(i-modeauなど)で生産者でもあり消費者でもある会員同士が、需要と供給をマッチングさせる「あおば市場」というシステムの試験運用が始まっている。田圃にいても畑にいても、どこにいても、電波の届くところであれば、需要・供給の情報をリストアップでき、提供者、要望者に電子メールで連絡して取引ができるシステムである。
 事業者は、別途口座を設けることができ、「あおばの会」と約定(例えば、一定割合のリーフの受け入れ義務など)を交わして、必要な場合はリーフ券を借り入れることができる。借り入れた分、口座がマイナスになる。
 
都市型の自然農業を支援し、その自然農法作物で担保されているこのリーフは、無制限に発行できるタイプの地域通貨とは違い、限定された額しか発行できないが、確実な引受先が存在し、また追加的なクーポンがあるユニークな仕組みである。

→情報ネットワーク構築の重要性。必要な人に必要な額を供給できる発行・管理システム。

○コミュニティ・ボンドと地域通貨

 昨今話題になっている住民参加型ミニ市場公募債のようなコミュニティの発展に寄与する目的で発行され、地元住民が直接起債を引き受ける地方債をコミュニティ・ボンドと一般に呼ばれる。昨年度から始まった住民参加型ミニ市場公募債は、不特定多数を対象にした市場公募であるが、一方で特定地域の住民を対象にした「住民公募」の方法(縁故)で発行されたコミュニティ・ボンドも過去に存在している。
 
昭和45年(1970年)、自治省のモデル・コミュニティ構想(小学校区を基礎)の一環として提唱され制度(モデル事業:歩行者専用道路・街路樹・公衆便所・公民館・図書館・託児所・体育館・コミュニケーション施設等、として認められた施設に対しての発行)であるが、実際にコミュニティ・ボンドの発行に至ったのは3事例のみ。

表4:1970年代のコミュニティ・ボンドの発行状況

発行自治体
兵庫県神戸市
栃木県高根沢町
岩手県山田町
起債目的
丸山地区
コミュニティセンター
建設
太田地区
コミュニティ
体育館建設
織笠地区
コミュニティプール
建設
総事業費
15000万円
3640万円
1850万円
発行額
3000万円
500万円
500万円
発行日
19725
19735
19743
発行形態
証券発行(公募)
証書借入
証書借入

発行対象者

地区住民
太田地区
コミュニティ
運営委員会(→住民)
織笠地区
コミュニティ
推進協議会(→住民)
利率
6.5
6.5
8.0
償還方法
元金5年後一括償還
利息毎年一回払い
元利5年後一括償還
元利5年後一括償還
住民参加率
18.1
(世帯単位、
6070世帯)
不明
14.2
(人口単位、
3481人)
平均購入金額
2万円
1万円以下74%)
不明
1万円
1万円以下44%)

 3事例とも利率は、当時の公定歩合や長プラ、縁故資金金利よりも低く、かなり低率で地域から資金を調達している(丸山地区の事例で、長プラより2%ぐらい低い)。(注:当時の調査記録では、寄付の感覚で購入した人が少なからずいたともある。)
 
現在普通預金の金利は限りなくゼロに近い中、ゼロ金利債券をだして、利回りを財ベースもしくは地域通貨で保証するという方式も十分考慮に入れることができる。(ミニ市場公募債をゼロ金利で発行し、財で利回りを保証する提案を出す自治体も出ている。非公式ながら、事前予約もかなりはいっている。)

  • 元本:NPOバンク(大規模なら信用生協、小規模なら民法677条の任意組合)などを設立し、地域のNPOへ融資。利子に関しては、債務者から円貨(手数料で一定金額)+地域通貨or財で支払いを受ける。
  • 利子部分:債権者に対して、融資先の財(モノ・サービス)か地域通貨で保証。

円貨の流れを変化させる。パブリック(公と共)の担い手に必要な資金を提供する。


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